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自作小説『猫の王国』

2006年5月14日自作小説自作小説, 短編, 神楽堂

キーワード 【黒猫】 【闇】


猫の王国ねこのおうこく

著者:榊 康生


 皆さんは、猫の王国を知っているだろうか?
猫に王国なんてある訳ないと思う人も多いだろう。
しかし、猫の王国は存在するのだ。

猫の王国は、闇の中にある。
闇の中の最も暗い所に王国への扉がある。
猫が暗い所でも目が利くのは暗闇の中のもっとも暗いところにある猫の王国への扉を見つけるためなのだ。
猫の王国では、人の事を二本足と呼んでおり、二本足は、狂暴で、誇りも持たなく、自分達の王国以外が存在することすら知らない、無知な生き物と嫌っている。
猫の王国に住む猫達は、自分達の事を誇り高き猫と自負しており、王国猫と呼んでいる。そして、哀れにも二本足に飼われている猫達は、囚われ猫と呼んでいる。
王国猫達は囚われ猫と違い、どんな暗い所でも良く見えるし、何倍も速く走れるし、身のこなしも軽やかで、誇り高い。
その中でも黒い猫は特別で、猫魔法を使うことが出来る。
黒が多ければ多いほど、猫魔法の使い手としては偉大であり、まったき黒猫は、魔法猫と呼ばれる。
猫魔法は、猫しか使うことが出来ないし、猫に対してしか使うことは出来ない。
そんな魔法猫に混じって、猫魔法を学ぶ王国猫達の中に、フォン(王国猫達の名前は長く、発音も複雑で、二本足の文字では表現できないので、略して書く)という猫がいた。
フォンは、一見魔法猫と勘違いするほど奇麗な黒だったが、尻尾の先がほんのちょっとだけ白かった為に、魔法猫になることが出来なかった。
しかしフォンは、頭も良く、誰よりも頑張ったので、魔法猫に劣らないほど猫魔法が上手かったし、誇りも高かった。
「やぁ、フォンこんな所で何してるんだい?」
ィユが、借りていた本を返しにきた王国図書館で、フォンの姿を見かけ声を掛けた。
「二本足についての本を探してるのさ」
誇り高きフォンは、猫魔法の他に、研究も三つほどしており、その中の一つが、二本足の研究だった。
「研究熱心なのも良いけど、祭りの準備はしなくて良いのかい?」
「祭り?」
「やっぱり忘れてたんだね。来週は、年に一度の祭りじゃないか」
ィユは、得意そう言う。
「あんなの魔法猫の祭りみたいなものじゃないか」
フォンは少し哀しそうに言うと、再び本探しに没頭する。
猫魔法が上手といえる程ではないが、それでも生まれついての魔法猫であるィユは、返す言葉も無い。
毎年一度行われる祭りは、王国祭とも呼ばれ王国の全ての猫が参加する習わしになっている。
そして祭りの中で、仮装したり、猫魔法を使ったりして一番多くの猫を驚かす事が出来た猫を次の祭りまでの一年間、司祭として王の次に偉い地位に就くことが出来る。
司祭になる事は、猫の王国の中でもっとも誇り高い事だと言われていた。
しかし、歴代の司祭のほとんどが魔法猫であるのも事実だった。
ィユは、寝そべりながら庭を眺めたり、本を探してまわるフォンを眺めたりしていた。
フォンが、抱えきれない程の本を持って来る。
その本の隙間から一枚の紙切れがヒラヒラと落ちる。
「あ!」
落ちていく紙切れを、ぼーっと眺めていたィユが突然大声を上げる。
その声に驚いたフォンが抱えていた本を取り落とし、その場に座り込む。
「もー! 祭りは来週でしょ。驚かさないでよ」
ィユは、フォンの声にも構わず、紙切れを指を差したまま答えようともしない。
フォンは、床に散らばった本を眺め溜め息を一つ吐きながら、ィユが指差す紙切れを拾う。
その紙切れに書いている字が、猫魔法語であることから、フォンが持ってきた本の頁が敗れた訳でないことが分かり少しほっとする。
しかし、すぐにそれが、普通の猫魔法書ではなく、禁断とされる猫魔法を示すものだと分かり、驚きと興奮、それとちょっとばかり恐い気持ちでどうしようもなくなる。
フォンは、散らばった本を拾うのも忘れ、一番隅の誰にも気付かれない席に座り、紙切れをじっくりと眺める。
後ろから恐る恐るィユが覗き込んでいる。
「やっぱり、禁断の猫魔法だ」
フォンは、真後ろにいるィユでさえ耳を澄まさないと聞こえないような小声で、震えながら呟く。
猫の王国の歴史に残る英雄達は、ほとんどが禁断の猫魔法と巡り合うことにより英雄になったり、破滅したりしていた。
それだけで、この禁断の猫魔法からは、栄光と破滅の匂いがしてくる。
「ど、どんな猫魔法なの?」
「分からない。もっと詳しく調べてみないと…」
ィユのか細い声に、フォンの震える声が答える。
「し、調べる……。いけないよ、禁断の猫魔法だよ」
「禁断の猫魔法だから調べるのさ」
フォンは、禁断の猫魔法書の紙片をしまうと立ち上がる。
「ど、どうしたの?」
「古代猫魔法語に関する本を探さないと、禁断の猫魔法が何か分からないだろ」
フォンは本を探しに歩き出したかと思うと、すぐこちらを振り返る。
「ィユ、もちろん手伝ってくれるだろ?」
イユは少しだけ逡巡したが、小さく頷くいた。

それから二猫は、図書館の中から古代猫魔法語と禁断の猫魔法に関わる本を片っ端に借りて帰った。
次の日から、借りてきた膨大な本との格闘のような日々が始まった。
祭りの日の朝になってやっと、禁断の猫魔法の解読が終わった。
猫魔法は、姿形を他の生き物に変えるという猫魔法だった。
この猫魔法が使えれば、飛びたい時は鳥になり、駆けたい時はチータとか速い動物になり、戦う時は獅子になることが出来る。
フォンとィユは、この猫魔法をどう使おうか考えた。
そして、今日の祭りでこの猫魔法を使って皆を驚かす事に決めた。
それは、魔法猫を驚かしてやりたいというフォンの気持ちもあったが、誇り高い猫は、誇りの高さと同じぐらい、好奇心と悪戯心に溢れているからでもあった。

祭りも盛り上がり沢山の猫を驚かそうと仮装や仮面をした猫達や猫魔法が飛び交っている。
その中でも人の多い中央広場でファンとィユは、猫魔法を掛ける準備をしていた。
猫魔法に必要なノカの実が手に入らなかったので代わりにカジスの実を使った。味が似てるから大丈夫だろう。
フォンとィユは、中央広場で猫魔法を掛けると二猫の姿がどんどん変わり、背丈も何倍にも大きくなる。
そしてそこには、二人の二本足が立っていた。
もちろんそれは、フォンとィユが禁断の猫魔法を使い姿を変えたものだ。
二本足に姿を変えたフォンは、巨人にでもなったような気持ちで町並みを眺め下ろしていた。
中央広場では、驚いて逃げる猫達や好奇心もあらわに近づいてくる猫など様々だ。
フォンとィユは、予定通り二手に分かれると転んだり、猫を踏みつけたりしないように気を付けながら街中を歩きまわり王国の城の前で合流した。
城では、王様や家来達が城から顔を出しては、驚きの声を上げている。
「王様の王国の民のフォンと魔法猫のィユでございます」
フォンが挨拶をしてフォンとィユが頭を下げると城から拍手が上がった。
やがて祭りも終わり間近になり次期司祭を決めるだけになった。
次期司祭には、国民も王様も意見が一致して、フォンとィユに決まり、フォンが司祭、ィユが司祭補佐ということになった。

これで、フォンとィユは、禁断の猫魔法のおかげで栄光を手に入れることが出来たのだ。
が、同時に、破滅をも手にしてしまった。
祭りが終わって、しばらくしても二本足の姿が元に戻らなかったのだ。
もう一度、禁断の猫魔法を使い姿を戻そうとしたのだが、猫魔法は、猫にしか使うことが出来ないし、猫に対してしか使うことが出来ない。
二本足の姿のフォンとィユには、猫魔法を使うことも猫魔法を掛けてもらうことも出来なかった。
後は、自分達に掛けた猫魔法が効力を無くすのを待つしかなかったのだが、何日経っても、司祭の任期が終わる一年が過ぎても元の姿に戻ることはなかった。
結局、二人は、猫の王国を出て人間が住む場所へと移っていった。
何故なら、建物も食べ物も二本足にとっては小さすぎたからだ。
それから数年が過ぎ、フォンもィユも司祭としての名が歴史に残るだけで猫達の記憶から消えていった。
こうして禁断猫魔法によって栄光と破滅を手に入れたフォンとィユだが、最後には、幸せになったと信じている。

何故なら、フォンとィユが人間の世界に降り、結婚して生まれたのが僕だからだ。
僕が17才になったある日、父と母は突然姿を消してしまった。
長い間、父と母を捜したが見つけることは出来ず、父と母の部屋を整理していた時に日記を見つけ、父と母が実は猫だったことを知ったのだ。
きっと、父も母も禁断の猫魔法の効力が切れて猫の姿に戻り、猫の王国に帰っていったのだろう。
ただ、一つだけ気がかりなのは、父と母が二本足に姿を変えてから生まれた僕は、人間なのだろうか?
それとも実は猫で、いつの日か猫魔法の効力が切れて猫に戻り猫の王国に帰る日が来るのだろうか?
時折、闇の中に目を凝らすと微かに猫の王国への扉が見える事があるのは、僕の中の猫の血が、猫の王国に帰りたがっているからなのかもしれない。


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Posted by ともやす