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その楽園の秘密…

2006年9月13日妄想白書♪神楽堂

僕は、この絵の秘密を知っている。

それは、我が家に伝わる古い古い油絵。
無名の画家が描いた、無名の作品。

絵は風景画。
森の中の開けた原っぱに何人もの人が描かれている。
佇む人。
語らう人。
走り回る人。

それらの人は、皆、統一のない様々な衣服を身に着けている。
洋風のひらひらした格好の人。
昔のお侍のような格好の人。
数十年前に流行っていたような服装の人。

僕は、この絵の秘密を知っている。

いつ頃描かれたかは分からない。
無名の画家が描いた、無名の作品。

その絵のタイトルは「楽園」

絵は、いつも僕の傍にいてくれる。
雨の日も…。
風の日も…。
雪の日も…。
嬉しい日も…。
哀しい日も…。

幼いある日、母さんが死んだ。
僕は、哀しんだ。
いつまでもいつまでも哀しんだ。
季節は移り変わっても、僕は哀しんでいた。
そして、父さんが教えてくれた。

絵の中に新しく人が増えていることに…。

そこには、一人の女性が微笑んでいた。
木陰に腰掛け、眩しそうに微笑んでいた。

僕は、この絵の秘密を知っている。

やがて父さんが死に、この絵に一人、男性が加わった。

新しく加わった男性は、木陰に腰掛けた女性の傍らで微笑んでいる。

昔、父さんと交わした会話を思い出す。

「どうして絵を描いているの?」
いつも父さんは少し遠くを見るように、こう答える。
「我が家では、代々、絵を描いているからだよ」
そして僕は、さらに聞く。
「どうして代々描いているの?」
父さんは、こちらに目を向け、僕の頭に手をのせながら、こう答える。
「お前にもいずれ分かる日が来るよ」

父さんは絵を描いていた。
それが我が家で必要だから。

父さんの父さんも、そのまた父さんも絵を描いていたという。

そして僕も絵を描いている。
それが我が家で必要だから。

この絵のタイトルは「楽園」
だけど、昔、描かれた当初は「森の広場」だったという。
森の広場に、一人、一人と増えていき、この絵のタイトルは「楽園」に変わった。

僕は、この絵の秘密を知っている。

それは、我が家に伝わる古い古い油絵。
無名の画家が描いた、無名の作品。

【後書きというか、言い訳というか…】
いくつか書き方を変えて書いてみたのですが、とりあえず、これが最初に完成したので、載せときます。
また、別バージョンのも完成できれば、載せてみようかと思います。

Posted by ともやす