その楽園の秘密…
それは、我が家に伝わる古い古い油絵。
無名の画家が描いた、無名の作品。
絵は風景画。
森の中の開けた原っぱに何人もの人が描かれている。
佇む人。
語らう人。
走り回る人。
それらの人は、皆、統一のない様々な衣服を身に着けている。
洋風のひらひらした格好の人。
昔のお侍のような格好の人。
数十年前に流行っていたような服装の人。
僕は、この絵の秘密を知っている。
いつ頃描かれたかは分からない。
無名の画家が描いた、無名の作品。
その絵のタイトルは「楽園」
絵は、いつも僕の傍にいてくれる。
雨の日も…。
風の日も…。
雪の日も…。
嬉しい日も…。
哀しい日も…。
幼いある日、母さんが死んだ。
僕は、哀しんだ。
いつまでもいつまでも哀しんだ。
季節は移り変わっても、僕は哀しんでいた。
そして、父さんが教えてくれた。
絵の中に新しく人が増えていることに…。
そこには、一人の女性が微笑んでいた。
木陰に腰掛け、眩しそうに微笑んでいた。
僕は、この絵の秘密を知っている。
やがて父さんが死に、この絵に一人、男性が加わった。
新しく加わった男性は、木陰に腰掛けた女性の傍らで微笑んでいる。
昔、父さんと交わした会話を思い出す。
「どうして絵を描いているの?」
いつも父さんは少し遠くを見るように、こう答える。
「我が家では、代々、絵を描いているからだよ」
そして僕は、さらに聞く。
「どうして代々描いているの?」
父さんは、こちらに目を向け、僕の頭に手をのせながら、こう答える。
「お前にもいずれ分かる日が来るよ」
父さんは絵を描いていた。
それが我が家で必要だから。
父さんの父さんも、そのまた父さんも絵を描いていたという。
そして僕も絵を描いている。
それが我が家で必要だから。
この絵のタイトルは「楽園」
だけど、昔、描かれた当初は「森の広場」だったという。
森の広場に、一人、一人と増えていき、この絵のタイトルは「楽園」に変わった。
僕は、この絵の秘密を知っている。
それは、我が家に伝わる古い古い油絵。
無名の画家が描いた、無名の作品。
いくつか書き方を変えて書いてみたのですが、とりあえず、これが最初に完成したので、載せときます。
また、別バージョンのも完成できれば、載せてみようかと思います。
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