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自作小説『扉』

2006年5月1日自作小説自作小説,短編,ホラー,神楽堂

これは、フィクションです。
ですが、これを読むことにより何かしらの恐怖体験等に遭遇したとしても、当方は一切の責任を負いません。

それでも読む場合は、どうぞ

とびら

著者:榊 康生


 あれは、僕が小学生の頃の事だった。
巷では、いくつもの怪談話や、まじないが溢れ、それも単なる眉唾物のその手のたぐいだと思っていた。

その日、僕は、いつものように部活を終えて、友人のE君とT君と3人で帰っていた。
外には土砂降りのような雨が降っており、どんよりとした空は、薄気味悪いぐらいだった。
だからだろうか。
友人のE君が、まるで言っちゃあいけない言葉でもいうような声で、僕に話し掛けてきた。
「おまえさぁ、しってる?」
僕は、E君の方を向いたが既に薄暗くなってきているのと雨と傘によって表情は良く見えなかった。
「知ってる? って何が?」
「この前、隣のクラスのI君が死んだんだって」
I君の話しは知っていたが、別に友達だった訳でもないので、僕はただ軽くうなずいて答えた。
「なんでもさ。呼び出せるらしいぜ」
呼び出せる? 何を言ってるんだろう。そんな事できる訳ないじゃん。そう思ったが、あえて口にはしなかった。
「何を?」
T君が、怖いもの知りたさ的な感じで、聞き返した。
「幽霊に決まってるじゃん」
E君は、さも当然の事のように言った。
「そんなのできっこないよ」
T君の言葉に、僕も賛同した。
実のところ、怖がりである僕は、できないと思ってるというよりは、それ以上、その話しを聞きたくなかった。
「あー、怖いんだろー?」
E君は、まるで自分が勝ったかのように偉そうに、なんども聞いてきた。
「怖くなんてない!」
T君が、語気を強くE君の言葉を否定した。
「怖いなら怖いって言えよなぁ」
「怖くないって言ってるだろ」
E君とT君は、何度か言い合いをしていた。
僕は、どちらかというと、さっさと家に帰って、こんな話し忘れてしまいたかった。
だけど、どこからそうなったかは分からないが、怖くないなら、幽霊を呼ぶ方法をやってみろという話しになっていた。
それには、僕も含まれていた。
今夜、自分の家で、幽霊を呼ぶ方法をやって、明日、言うこと。
ちゃんとやらなかったら、そいつは、弱虫決定。
そんな子供の喧嘩じみたことだった。
それから、少しして分かれ道に来て、僕は、足早に家に帰った。

家で、晩御飯を食べて、TVをみて、TVゲームをしている内に帰り道の話しも忘れて、夜の10時には布団に入った。
夜中にトイレで目がさめて、トイレで用を足していた時のことだ。
トイレの時計を見るとちょうど三時を指していた。
そして時間を見て、今日の帰りの事を思い出した。
外からは、まだ雨音が聞こえていて、いつもよりちょっと寒かったせいだろうか。
ちょうど、その幽霊を呼び出す方法が三時に行うと聞いていたからだろうか。
背筋に、ぞくぞくと寒気が走った。
外からは雨音が聞こえてくる。
廊下を覗くと真っ暗で、当然、何もいるわけもなく、ただ、雨音だけが聞こえてくる。
怖いことを考え始めると、頭の中に次々と怖いことが浮かんできて、じっとしていられなくなってくる。
僕は、早々にトイレを出ると急いで部屋に向かった。
そして、部屋の前まできて、閉じられた扉の前で足を止めた。

E君の言っていた、幽霊を呼び出す方法は、こうだった。
夜中の三時に誰もいない部屋の扉を1回ノックする。
そして、心の中で呼び出したい幽霊を想像する。
今度は、2回ノックして、心の中で呼び出したい幽霊の名前を呼ぶ。
最後に、3回ノックする。
成功していれば、誰もいないはずの部屋の中からノックが返ってくる。
但し、途中で止めると呪われるというものだ。

僕は、扉の向こうにまるで何かいるかのような気がして、扉を開ける事ができないでいた。
かと言って、ノックする勇気もない。
どうしようか、明日、適当に言って誤魔化そうか。
でも、やらなかったのが、バレたら、きっと色々言われるんだろうな。
もしそれが元でいじめられたりしたら、どうしようか。
頭の中は、幽霊が怖いのと、明日言われるのが怖いのとで、ぐるぐるになっていた。
だからだろうか。
扉にノックを1回した。
コン。
自分でノックした音で、背筋に寒気が走った。
周りの温度が少し下がったような、周りから何かに見られているような。
暗闇で目を凝らして周りを見ても、何もいない。
こんなことなら、ノックなんてしなければ、良かった。
もう止めようにも、怖くて止められない。
僕は意を決しても、次は二回ノックする。
コン、コン。
再び、背筋に寒気が走り、周りの何かの濃度が濃くなった錯覚に囚われ、もう一度、辺りを見回す。
先程より濃くなったような気がする暗闇には、もちろん何もいない。
しかし、何かに見られているような感覚は強くなり、何度も振り返らずにはいられない。
まるで、すぐ傍に何かがいるような、通り過ぎたような。
雨音に後ろに振り向き、目を凝らし、何もいない事を確認して、扉の前に立つ。
怖くて怖くてしょうがないのだが、その怖いのを終わらせる為に、最後に三回ノックをする。
コン、コン、コン。
背筋に寒気が走り、周りを見回し、目を凝らし、何もある訳ないと自分に言い聞かせる。
後は、何でもなかったと扉を開けて、部屋の中を見回して、何もある訳ないと確認して寝るだけだ。

コン。
扉の方を振り返る。
小さくだが、確かに扉を叩く音がした。
外からは、いまだに雨音が聞こえてきている。
気のせいだ。
幽霊なんか呼び出せる訳ない。
雨音の聞き間違いだ。
自分にそう言い聞かせるが、怖くて扉を開くことが出来ない。

コンコン。
二回、扉を叩く音が聞こえた。
間違いじゃない。
確かに、扉が叩かれた。
何に? 幽霊? 気のせい? でも実際叩かれた。
背筋に寒気が走り、全身の鳥肌が立つ。
どうしよう。
どうしよう、どうしよう。

コンコンコン。
三回、扉が叩かれた。
「お願いします。帰ってください」
僕は、怖くて逃げ出したいのをこらえながら、扉を叩く時に念じた要領で、心の中で話し掛けた。
扉を見据える。
周りの何かの気配に押しつぶされそうになる。
一分過ぎて、二分が過ぎた。
数分が、何十分にも感じる。
ノックされない、帰ってくれたのか…。

コンコンコンコン。
四回、叩かれた。
周りの気配は一層濃くなり、恐怖で足がすくみ、床にうずくまる。
「お願いします。僕は、E君に言われてやっただけなんです。どうか帰ってください」
僕は床にうずくまり必死に心で念じた。
何度も何度も念じている内に怖くて涙が溢れてきた。
それでも、床にうずくまり必死に念じた。
一分が過ぎ、十分が過ぎ、一時間が過ぎた。

朝、扉の前でうずくまって寝ている所を、親に起こされた。
夜中の事は、覚えていたが、現実と考えるには怖すぎて、夢と思うには、はっきりしていた。
扉を開けて、明るくなった部屋を覗いても、何も感じない。
夢だったのだろうか。
僕は、夜中のことは夢だと思うことにした。
次の日は休みだったので、休み明け学校に行ったが、E君は、休みだった。
T君は、結局、やらなかったという。
E君は、ずーっと休み続けていて、僕は、幾つか不幸な事があり、引越しと転校をした。
小学校を卒業後、たまたまT君に会った時、E君のことを聞いたが、結局、学校に来ないままクラス替えがあり、その後は知らないということである。
僕の周りに起こった幾つかの不幸とE君に身に起こっただろう事が、呪いだったのかどうかは、分からない。
しかし、それ以後、夜中にドアをノックした事はない。


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Posted by ともやす